REVIEW

「僕は映画が好きなだけなんだ!」オタク・トラボルタの悲しき暴走

文◎加藤よしき

 トラボルタがフィーバー! 『ファナティック ハリウッドの狂愛者』は、久々にトラボルタが全力のオーバーアクトを見せてくれる作品だ。トラボルタといえば、古くはブレイク作『サタデー・ナイト・フィーバー』(77年)、あるいは再ブレイク作品『パルプ・フィクション』(94年)など、オシャレに踊るイメージが強いが、90年代アクション映画ファン的には、トラボルタは踊らないし、狂演の人である。『ブロークン・アロー』(96年)や『フェイス/オフ』(97年)などで、悪の擬人化としてスクリーンで暴れ回っていたものだ。あの頃の暴走トラボルタが返ってきた。しかも哀しみを携えて。往年のエキセントリックさと、繊細な善人の合わせ技は、彼の新境地を開拓したと言えるだろう。

 本作でトラボルタが扮するのは、ハリウッド・スターに対して強い憧れを持つ中年男性ムース。大道芸で日銭を稼ぎながら、映画マニアとしての活動に人生を捧げている。そんなムースは遂に憧れのスターと対面するが、間が悪いことに彼は別れた妻との泥沼ケンカの真っ最中で、スターはムースに八つ当たり。憧れの人物の横暴さに胸を痛めたムースは、徐々に凶行に……。

 もうこのムースの人生転落劇場が、悲しくて悲しくて、とてもやり切れない。常に金欠なのに、オンボロのスクーターに乗って、なけなしの金でスターのグッズを買い集める(デカいトラボルタと、小さなスクーターの対比も泣ける)。しかも、そこまでムースが憧れているスターは、特殊メイク賞やスタント賞のトロフィーしか家に飾っていない、つまり演技力などは評価されていない俳優なのだ。ムースは人生を懸けて、世間的には大して評価されていない男(素行に問題あり)を全力で推しているのである。こんな悲しい話、ありますか? どこで出るかはネタバレになるので避けるが、それでもムースが「僕は映画が好きなだけなんだ」と語るシーンは、胸をしめつけられた。強引な脚本と感じられる部分もあるが、それを補って余りあるムースという男の哀しみを、トラボルタは全力で表現し切った。

 さらに本作で注目したいのは、監督がフレッド・ダーストであることだ。彼は2000年代初頭にラップ・メタルバンドのLimp Bizkit(リンプ・ビズキット)のボーカルとして大成功を収めた。同時期に活躍したKORNやMarilyn Mansonほど暗くもなく、RAGE AGAINST THE MACHINEやLINKIN PARKほど真面目でもない。矛盾するようだが、ヘヴィだけどノリが軽かった。売れまくったが、アンチからボコボコに叩かれていたのを覚えている。しかし今になって思えば、あれはあれで奇跡的なバランスだったのかもしれない。そんなダーストさんの絶妙にヘヴィでライトなノリは映画でも健在。暗い話なのに、唐突にリンプ・ビズキットを賞賛するシーンが入ったりするのは、いかにもダーストさんらしい。

 そしてダーストさんといえば、ラップゴッドことエミネムさんとも仲がよかった(ケンカもしたけれど)。エミネムさんは1人のエミネム信者が狂っていく様を歌った「STAN」という名曲を作ったが、もしかするとこの映画は、ダーストさんから「STAN」への20年越しの回答なのかもしれない。完璧だが1ミリも救いのない「STAN」に対し、完璧ではないが非情になりきれない『ファナティック』。ここにダーストさんの個性がある。

 トラボルタのブレーキとアクセルを同時に押す大熱演。そしてダーストさんの絶妙にヘヴィでライトなノリ。2人の化学反応は、『ファナティック』という奇妙な作品を生み出した。決して完璧ではないが、歪だからこそ印象に残る。暗くて哀しいけれど、フィーバーしている映画だ。ともかくトラボルタのキャリアに、1つのカルト作が加わったのは間違いない。

COLUMN

チョイ悪からテロリスト、内気な専業主婦まで!変幻自在!トラボルタ映画5選!!

選・文◎長谷川町蔵

 ジョン・トラボルタの映画俳優としてのキャリアは45年にも及ぶ。そこから5作を選ぶのは不可能に等しいのだけど、あえて独断と偏見で選んでみた。『サタデー・ナイト・フィーバー』(77年)と『パルプ・フィクション』(94年)は人類の基礎教養なので取り上げないからあしからず。

 さて、トラボルタは当初甘いマスクとナイスボデイを併せ持つアイドル俳優として人気を博していた。こうした初期の代表作が、1950年代を舞台にした『グリース』(78年)。彼扮する不良グループのリーダー、ダニーとオリビア・ニュートン=ジョン扮する優等生女子サンディの学内格差恋愛が、オールディーズ感覚満点の挿入歌とともに描かれるロックンロール・ミュージカルだ。リーゼント&革ジャン姿のトラボルタもシング&ダンス! 当時ティーンの憧れだったのも納得のクールさだ。

 そんなアイドルも、大人の俳優にステップアップするためにアート性の高い映画に主演したりする。というわけで2作目として挙げたいのが、ブライアン・デ・パルマ監督作『ミッドナイトクロス』(83年)。同作でトラボルタが演じたのは、自動車事故を目撃したために陰謀に巻き込まれてしまうB級映画の音響効果マン、ジャック。暗い過去を抱える内向的な青年を繊細に演じきったことで彼はアイドルからの脱皮に成功したのだった。

 80年代後半以降、人気が一時的に低迷したトラボルタだったが、映画の女神は彼を見捨てなかった。『パルプ・フィクション』で劇的なカムバックを果たすと、彼のキャリアは第2黄金期へと突入する。この時期の代表作がオフビートなクライム・コメディ『ゲット・ショーティ』(95年)だ。映画業界に挑戦するチャラい中年ヤクザ、チリ・パーマーを軽妙に演じたトラボルタは、ゴールデングローブ賞主演男優賞 (ミュージカル・コメディ部門)を見事獲得する。同作がお気に召したら続編『Be Cool/ビー・クール』(05年)もどうぞ。

『ゲット・ショーティ』のチリ・パーマーが“チョイ悪”だとするなら、香港ノワールの巨匠ジョン・ウーが手掛けた『フェイス/オフ』(97年)でトラボルタが怪演したキャスター・トロイはさしずめ世界規模の悪党だろう。いや、正確に言うと序盤で演じているのは善良なFBI捜査官ショーンなのだ。だが彼がニコラス・ケイジ演じる国際テロリスト、キャスターと手術で顔の皮を交換したことで2人の立場は入れ替わってしまう。つまりトラボルタは中盤以降、悪役になるというわけ。骨格が違うから手術は不可能とか言わないように。乱れ飛ぶ銃弾と鳩を観ていたらどうでもよくなってくるはずだから。

 そして最後にお勧めしたいのが、『ヘアスプレー』(06年)。ジョン・ウォーターズのカルトコメディ作のブロードウェイ・ミュージカル版のそのまた映画化となる(ややこしい)同作で彼が演じたのは、主人公トレイシーの母親エドナ。オリジナル版で巨漢ドラァグ・クイーン、ディヴァインが演じていたことへのオマージュだが、特殊メイクで内気な専業主婦になりきっているのが凄い。夫役のクリストファー・ウォーケンと甘いラブソングをデュエットするシーンは必見だ。

 それにしてもリーゼントの不良から、影のある文化系青年、チョイ悪ヤクザ、国際テロリスト、そして専業主婦まで。これほど広い役柄を演じてきたハリウッド・スターが他にいただろうか? そう、ハリウッド広しといえど、挙動不審の映画オタク、ムースになりきることができる映画スターはジョン・トラボルタ以外考えられないのである。